2006
06.16
Fri
<オススメ>『まほろ駅前多田便利軒』 三浦しをん (文藝春秋)
post time: 09:15, category: 三浦しをん, author: トラキチ
三浦 しをん / 文藝春秋(2006/03)
Amazonランキング:位
Amazonおすすめ度:
<チワワがたぐり寄せた読者の胸を熱くする究極の友情物語>
だれかに必要とされるってことは、だれかの希望になるってことだ。
三浦しをんさんの小説最新作。
出版社からして直木賞、千載一遇のチャンスだと見ている。
表題に書いている友情物語だけでなく、家族のあり方(夫婦や親子問題)も必ず考えさせられる魅力的な作品。
家族のいない登場人物が読者に熱き家族小説をエスコートしている。
演じているのは多田啓介と行天春彦。かつてふたりは高校時代のクラスメートであった。
東京の郊外、神奈川県との境にあるまほろ市で便利屋を営む多田とひょんなところで彼と再会する行天。
行天が多田の事務所に居候しさまざまな事件を解決していくストーリー展開。
便利屋っていっても実際は雑用係。冒頭の病院のお見舞いの代理にはじまりペットの世話や塾の送り迎え代行など・・・
本作を読んで行天を魅力的な人物と感じない読者はいない。
まさに“びっくり仰天”するほどのナイスガイなのである。
伊坂幸太郎の
『砂漠』の西嶋を彷彿させる行天。
それに反してごく平凡な多田。
少し人生に対して否定的な多田と人生を達観している行天。
漫才で言えば多田がツッコミで行天がボケの間柄。
ちょっと苦言を呈させていただくと、各章のトップで描かれている2人のイラスト。
あまりにもイイ男すぎないか?
でも女性読者にとってはイマジネーションを良い意味で膨らませてくれることであろう(笑)
あと、関西人の私はどうしても東京の地理に疎いのであるが(汗)、モデルになっている都市周辺で住む方にはかなり親近感を抱きながら読めることであろう。
これに関してはとっても羨ましく思います。
この作品を読まれて、人間の著しい変化に気づかれた方が大半だと思う。
ひとりの男との出会いによって主人公の多田が癒され再生していく姿。
もちろん、チワワを預かることによって生じた様々な騒動。
行天との再会に始まり、チワワを飼えなくなったマリやその後飼い主になるルルをことにより話を進めていくストーリー展開も目が離せない。
多田と行天ともにバツイチである。
読み終えてどちらの方が辛い過去であったかを考えてみた。
具体的に書くと未読の方の興趣をそぐので書けないのが残念である。
しかし、行天が持っている潔さというか寛大さは決して天性のものではない。
過去の辛い経験が今の彼を支えている。
終盤は行天によって本当に大事なものを多田が気づいていく展開が待っている。
予定調和だとはいえ心地よいことこの上ない。
三浦さんの凄いと思うところは、決して読者が多田を否定出来ないところである。
なぜなら、
多田の心の中にある自分の過去に対する“わだかまり”って読者が常日頃持っている不安感や寂しさの象徴のような気がするからである。
この意見に同意してくれる方は、おのずからこの作品の評価が高くなると確信している。
逆に行天は“処方箋的役割”を担って本作に登場している。
ほんの小さな幸せが実は大きな幸せなんだ。
大切なことを気づかせてくれた贅沢な読書であったことを最後に書き留めておきたい。
オススメ(9)
この作品は私が主催している第5回新刊グランプリ!にエントリーしております。
本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。(投票期間2006年8月31日迄)
コメントありがとうございます。
しをんさん、新刊出ましたね。
実は買っちゃいました。
スポーツ青春小説なんで行天みたいな人物は出てこないでしょうね(笑)
TB反映されてませんね、ごめんなさい。
原因不明です。
ファンブログを主催している人間としては申し訳ないのですが、『温室デイズ』の感想が書けてません。
私的な忙しさと考えがまとまらないのとの両方ですね(汗)
実は今4回目読んでます。
もう少しお待ち下さい。
「チワワがたぐり寄せた」という書き出し、笑えました。
行天と多田の奇妙なコンビネーション、ちょっと切ない部分もある、とても楽しめた作品でした。
多田の再生への物語とも読めますね。
『強運の持ち主』瀬尾まいこ応援ブログにトラバしましたが、反映されないようです(涙)。
お返事遅くなりました。
直木賞、イラストが後押ししたような気がしますよね。
時代も変わったものです。
これからも当ブログご愛顧お願いします。
>すーさんさん、こんばんは♪
ドラマ化はキャスティングでかなり期待できそうですね。
しをんさんの今月の新刊は青春小説らしいです。
これは買ってみようと思ってますよ。
心の奥底ではいなくてはいけない存在として
認識しているんだろうな、って感じがしてます。
続編でもドラマ化でもこいってな感じです。
TBさせていただきました。
名前が一文字違いでなんだか勝手に親近感・・・(笑)
私は直木賞受賞が決まった後読んだのですが、面白かったです。
イラストはびっくりしましたけど。
女性読者同様(というかそれ以上に?)、しをんさんが喜んでる姿が目に浮かびます(笑)
時々のぞかせていただくと思いますがよろしくお願いします。
コメントありがとうございます。
この作品読んでて楽しいしかつ切ないし素晴らしいですね。
最近の映画化・ドラマ化ブームからして実現可能のような気がします。
オダジョーさんが行天だと高視聴率間違いなしかな(笑)
いつもいただいてばかりでしたので,少しはお返しせねばと重い腰を上げてまいりました。
この話いいですよね。笑えてしんみりできて。
しをんさんの本領発揮!が感じられました。
わたしもおススメの一冊です。
TB&コメントありがとうございます。
直木賞にノミネートされる確率はかなり高いと思いますよ。
直木賞予備軍の方がかなり受賞されたので、文壇を活性化させるためにも若い方が取るのもいいと思います。
>出版社からして直木賞、千載一遇のチャンスだと見ている。
というところにピピッ!ときてしまいまして、TBさせていただきました。
候補にだけでも挙がってくれないかな〜と期待しているところです。
しをんさんの読者ってエッセイも含めて大半が女性読者でしょうから、かなり効果的なイラストだったと思います。
男性読者の私は、イラストにびっくり行天(字が違いますね)しましたよ(爆)
このイラストは女性読者には効果覿面のようですね。
イラスト以外にも表紙(りんごにラッキーストライク)もなかなか洒落てたと思います。
そういえば、タバコ値上げですね(汗)
直木賞はまだノミネート前の段階ですが◎森絵都○三浦しをん▲瀬尾まいこだと思っております(ちなみに全部文春で全部別冊文藝春秋掲載物です)
今回はノミネート前の段階で考察を記事にしますのでまた覗いてくださいね。
>ななさん、こんばんは♪
楽しい読書となりました。
みなさんの感想を拝見すると、行天はオダギリジョーという声が多いようです。
確かに彼は2枚目も3枚目も出来ますものね(笑)
行天は婚姻の時点で人間がもう癒されてると言うか達観出来てたとわたしは思っております。
>ERIさん、こんばんは♪
少なくともあのイラストは成功だったと思います。
ドラマ化する場合も参考になるしね(笑)
直木賞は『空中ブランコ』の例もあるので可能だと思っております。
でも森絵都さんのが凄くいいのでそちらの方が有利かな。
選考委員は、強力作品がある場合は残りをけなしますが、つばぜりあいの場合はそんなことはないような気もします。
“雑草のように逞しい生き方をしている行天”という比喩が聞けるかも(笑)
トラキチさんの書評を読んで、私が腐女子であることに気が付きました(爆)やっぱりあのイラストのせいでしょうか・・。行天の純粋さがたまらなく良かったですね。
直木賞・・・はどうなんでしょう。御大の方達がこの物語をどう思うか・・ちょっと疑問です(爆)
最初読み始めたときにはもうちょっとイケテない男二人を連想して読み始めたのですが、喜んでいいほうに修正しました(笑)
多田も周りの人たちもみんな少しずつ癒されていましたね。行天はどうだったのでしょかね?
いつもTBありがとうございます。
>各章のトップで描かれている2人のイラスト。
これは、反則ですよね(苦笑)
このイラストイメージが頭から離れませんでした。
人物描写をするにあたって、ずいぶんと助けられているような気がしました。
直木賞・・・うーーん。どうなんでしょう?(笑)